ももの日記

☆誰もがこの星の大切なPrince Princess☆

就活お疲れ様でした。


舞台「何者」

初日の夜公演を観て、凄いとしか言えず「もう見たくない」という感情さえ抱いた。

ゲネのWSから、タバコとか生着替えとかに期待をしていたけど(変態)、そんなものはどうでも良いと思える程の表現力に圧巻だった。表情も台詞の言い回しも細かな演技もアドリブ力も、全てが今までのものとは違った。


正直あらんちゃんの演技を甘く見ていたと思う。お芝居が好きなことは色々な所で発言していたし、実際にお芝居を見る機会もこれまで沢山あったけれど、今までのどれとも違う、比較するには値しないような、そんな演技を見せ付けられた。
観ている側の体力も精神力も削ぎ落とすような演技を。

そして、そんな舞台の座長としてセンターに立ち、ほぼ出ずっぱりで、座長ってこういうことなのかと思った。カテコの三方礼の先導をしている姿に、胸の奥がギュッとなった。あらんちゃんは「何者」の座長なんだと改めて実感した。


原作は読んでいたし、映画も観ていた。

だからこそあらんちゃんの演じる拓人が想像できなくて、あんな地味な就活生になれるんだろうかと思った。
後味の悪いジトッとした作品になるのだろうかと思った。

だけど、やっぱり、そんなことは全く気にならないくらいにあらんちゃんは拓人を演じていたし、そこには間違いなく拓人がいた。

「拓人は一番色がないイメージ。常に冷静で、物事を俯瞰的に捉えるところがあり、それを口に出さないから、他人からはクールに見られがち。(中略)今回の舞台版・拓人は、もう少し人として色濃くなっています。あえて感情をころころ変えたり、相手によって声の質を変えたり。」

パンフレットに掲載されたコメント通り、とても細かい所まで拓人としての演技が凝らされていた。

対光太郎はルームシェア相手であり気心の知れた相手だから、心の闇も見せられる。笑顔が多くて、あらんちゃん自身も楽しそうに見える。(ESの長所のアドリブの掛け合いとか名刺を貶して踏み付けるシーン、光太郎内定祝賀会、コータローのTwitterを見るシーン、光太郎と拓人の絡み全てが見所だった)

対瑞月さんは声が明るくなって、たどたどしさも出てくる。魔女宅のトンボで観たような感じ。(試験後のベンチでの「見つかった!」の言い方と手の広げ方とか)

対サワ先輩は拓人の可愛さが前面に出てくる。拓人のことを受け止めてくれる優しい先輩で、相談も愚痴も何でも溢せる相手だけど、時にしっかりと正してくれるところもある。そんなところをよく分かっての関係。(スリッパで叩かれたりグラスで叩かれたりしたけど、可愛かったしサワ先輩が「わかったわかったハイかわいいかわいい〜」てあしらったのは心の声が漏れたと思ってるよ☆)

対理香さんは嫌悪感を気付かれないようにしつつも、必要最低限しか関わろうとしない感じが出てた。(会話もいまいち噛み合ってなかったり、グルディス後もわざわざ待ち合わせたのにすぐ別れたり)Twitter見てる時は最高に悪い顔、バカにしたような顔してて怖い。

対隆良は嫌悪感を前面に出して、攻撃的な言動が多く見られた。(瑞月が大企業志向なことを貶されたら「隆良はどうするの?」と聞くところ、2曲目でジャケットを思い切り強く投げつけるところ、喫煙所で就活してたこと広告を中傷してることを指摘するところ、瑞月の内定祝賀会で「頭の中にあるうちはいつだってなんだって傑作だよな。お前はその中から抜け出せないんだよ」と言い捨てるところ)


目に見えて分かりやすい表現や台詞の言い方だけでなくて、目線とか表情とか仕草とか、本当に細かい所まで研究して拓人を演じていたし、出演者6人全員が役の人物になりきっていた。

だからこそ、一人一人が抱えている闇の部分が見えた時に恐怖を感じたり、狂気的に見えたり、感情を激しく揺さぶられたんだと思う。
観た後に精神的にきたんだと思う。


光太郎内定祝賀会の帰りに、拓人が一人で理香の家にプリンターを借りに行って、拓人の裏アカウントがバレて、就活2年目なのに内定が出ないことを指摘されるシーン。
雨風の音や雷の光が、2人の感情が激しく揺れていることを嫌という程、表現していた。
そこから始まる理香の言葉が痛くて、拓人の言い訳も痛くて、「就活」がここまで人を追い込んでしまうのかと思った。

拓人の狂気のダンスシーンでは、発狂したりほくそ笑んだり無表情になったり、全身を使って踊り狂う姿を見て息を飲んだ。鳥肌が立った。
(拓人以外で言うならば個人的には理香が笑顔で名刺を投げる姿が一番怖かった)
大量のESが降ってくると、手に取り、口に含むような仕草。「また落ちた」の余りに弱々しすぎる言い方。「戦い方は知り尽くしているはずなのに、なかなか実を結ばない」とパイプ椅子を拳で殴りつける仕草。飛び込んだ後の這いつくばり方。手足に纏わりつくESを払う仕草。「今年も内定が出ない」と自分の体を腕でさする仕草。

本当に怖かった。見ていられないとさえ思った。当事者でないはずなのに、痛々しくて苦しくて心の奥に闇を落とされた気分だった。


暗転した後に再び冒頭の面接シーン。
汗だくで顔を強張らせながら面接官の質問に答えた拓人が
「多分、また落ちた。でも、大丈夫」
と、とても晴れやかでスッキリとした表情になったところで暗転していく。その終わり方がとても好きだった。


千秋楽のカーテンコールの挨拶であらんちゃんはこう言った。

「二宮拓人役の阿部顕嵐です。本日は本当にありがとうございました。何者に出てくる6人、一人一人が好きで、愛してるんですけど、やっぱり一人一人の良い部分も悪い部分も僕も含め皆さん必ず持っていると思う部分があるので、この舞台を観て胸に刺さる言葉とかシーンとか僕自身やっててあるので、皆さんも胸に残して帰ってくれたらなと思います。6人で全身全霊で全公演を走って今は内定が決まったような清々しい気持ちです。就活したことないけど(笑)こういう素晴らしい舞台、何者に出会えて、座長としてこの舞台に立って、今とても幸せです。僕の人生の財産にもなりました。この舞台に関わってくれた全ての方々、観に来てくれた沢山の方々、全ての人にお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。本日はありがとうございました。」

二十歳の男の子が、登場人物を愛してるとか、舞台に立てたこと作品に出会えたことを幸せだとか、自分の人生の財産になったとか、何の迷いもなく堂々と発言してくれることが本当に嬉しいし、あらんちゃんらしさが溢れていて誇りに思った。

それから、1人目の小野田さんを指す時に「りゅうちゃん」と呼んで「ありがとう、阿部ちゃん」と返されたこと、2人目の宮崎香蓮さんは名前こそ呼ばなかったけれどアイコンタクトで知らせてお互い笑ってしまったこと、このカンパニーでもあらんちゃんは愛されていることを強く感じた。


初日は狂気に満ちた拓人を演じるあらんちゃんを観てすごくドロドロとした気持ちになって回数減らそうかと割と深刻に悩んだりもしたけど、回数重ねるごとに自分の中でも見方や解釈の仕方が変わったりしたから減らさなくて良かった。間違いなく「何者」があらんちゃんの代表作になったと思うし、今後名刺代わりとして紹介されていくと思っていたから、あらんちゃんも同じように捉えてくれていてとても嬉しかった。

何者主演が決まった際に「拓人役を他の"何者"でもなく、僕が演じてよかったと言っていただけるように全力で役と向き合いたい」とコメントしていた。
拓人役をあらんちゃんが演じてくれてよかった。全力で役と向き合う姿を見せてくれて本当にありがとう。

内定おめでとう。

就活、お疲れでした。